06.無自覚の誘惑B






いた・・・

「どうしたんだい、姫君。」

「何か・・・目に、ゴミが・・・」

「擦るとその綺麗な瞳が傷ついちまうぜ・・・見せてごらん。」

そう言いながら俯いていた姫君の顎に指をかけて上を向かせる。

「・・・ゆっくり目を開けるんだ。」

優しく声を落とせば、閉じられていた瞳がゆっくり開く。



いつも以上に潤んでいる瞳
涙を流した所為で、微かに赤くなっている目




「ヒノエ・・・取れそう?」

痛みの所為か、それとも無意識なのか・・・まるで情事の後のような甘い声でオレの名を呼ぶ。

「・・・しー、静かに。」

参ったね、こんな船の上で・・・
他の船団には手下も沢山いるってのに、こんな気にさせられちまうとは・・・姫君も罪な女だね。

、ちょっとこっちに来てくれるかい?」

「え?」

「太陽の光が当たって、ちょっと分かりにくいんだ。ほら、そこの影ならちょうどいいだろう?」

「うん。」

姫君は本当に素直で可愛いね。
やれやれ、今が仕事の前じゃなけりゃ、早舟に乗り換えてとっとと館に帰っちまいたい所だよ。
オレより先に船上の人目につかない場所へ入り、オレがやって来るのを待っている。

「えっと、どうすればいい?」

ゴミの入った方の目を手で押さえながら、やって来たオレを見るお前は酷く魅力的だね。
オレを見つめる瞳は信頼しきっていて、一切の迷いがない。
まるで宝石のような輝きだ。
それに映っているのが自分だけだという事実に喜びを感じながら、姫君の後ろにあった樽へ腰を下ろす。

「おいで、姫君。」

「え?」

「お前をこんな固い場所に座らせるなんて出来ないからね。オレの膝の上においで。」

「・・・」

「いつも褥を共にしているんだ。今更恥ずかしがるような事じゃないだろう?」

その恥ずかしがる表情が、仕草が・・・オレの全てを熱くさせる。

「・・・おいで。」

ゆっくり近づいてくるお前の手を取り、そのままひょいっと抱き上げる。

「!」

「ねぇ、目に入ったゴミを取る方法を知ってるかい?」

「と、取り方?」

「そう。簡単な事さ、涙でゴミを洗い流せばいいんだよ。」

「・・・涙で?」

「だから、これからオレは姫君を泣かせるよ。勿論・・・喜びの涙で、ね。」





口元を緩めながら、策に落ちたの唇にオレの唇を ――― そっと重ねた。





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